戦国自衛隊1549・監督■手塚昌明◇角川映画

http://www.sengoku1549.com/pc/(FLASH)

2005年福井晴敏映画祭りの第二弾。

プラズマシールド実験中の自衛隊実験小隊が突如消えてしまった。その後、虚数空間が現れ、現実世界を徐々に飲み込んでいってしまう。過去にとばされた実験小隊が原因と考えた自衛隊上層部は除隊していた鹿島をオブザーバーに迎え、1549年に彼らを救出しに向かうことになるのだが…

という感じで、前作「戦国自衛隊」のリメイクというよりは、自衛隊が戦国時代にいっちゃうという、設定だけを頂いた別作品に仕上がっている。とはいえ、そこは原作(?)福井氏や、ゴジラシリーズでパラレル歴史や超兵器を活躍させていた手塚監督のこと、細かな遊びなどが仕掛けられている。

とくに、的場(加賀丈史)率いる実験小隊が、とばされてしまった時代で、織田信長を倒して天下を取っている所などは、前作の伊庭達が、もしも作戦に成功し、生き残っていたら…という、IF的な要素が感じられる。「歴史がどうだっていうんだ!」と、前作では言っていたが、それが成功したら、現代の歴史はなかったことになり、空間ごと崩壊してしまうという展開が、かなり皮肉な感じで面白い。無茶な理論だけど、正史に成り得ないパラレルワールドは崩壊しちゃうと言うのも、面白かった。

ストーリー的には戦国よりも「自衛隊」というところに重きが置かれている感じがした。人や国を護ると言うこと、戦うと言うことの部分がかなりクローズアップされていて、考えさせられた。除隊した鹿島が「実弾を使おう」と軽く言うと「そんなに人を殺したいのか!」と反論する森3佐など、一見なにも分かっちゃいない上官なんだけど、自衛隊として考えるとすごい重い言葉だと重う。特に、海外派兵してても武器を簡単に使えないという事実を考えると…

そういう部分もあるので、戦闘シーンが思ったよりも少なかったので、その点はちょっと不満だけど(といっても、クライマックスは怒濤の展開なので、そのためのタメなのかも)かなり面白かった。

とくに、現代の服を着ても、武者の動きをする七兵衛とか、全く色気を感じない鈴木京香とか、天守閣の隣に石油プラントがあるとか、物見櫓になにげに銃器が備え付けてあるとか、刀と銃器をチャンポンで持っている鎧武者とか、なぜか名乗りを上げて敵に向かっていく森三佐とか、歴史通りの服着ちゃってる織田信長こと的場とか、Gショックな斉藤道三とか、初っぱなから死亡フラグ立てちゃった嶋大輔とか…

オチに関しても、無茶苦茶になった歴史をそう修正していくか!という感じで感心した。
爆弾周りは、結構シンプルだったけど…

(ネタバレになるけど、自分は最後の富士山噴火爆弾をプラズマシールドで富士山を囲んでしまい爆発力を分散させちゃうのかと思ってた、そこで、石油とかを電力として使い切っちゃうから、戦車とかを置いていっても大丈夫とかね。で、現代に帰ると、虚数空間は消えてるんだけど、富士山が半分えぐれてた、とかね…)

話が詰まってるせいか、もの凄いテンポで進んでいくので?とおもっても、立ち止まらず最後までいってしまう。

ただ、あてがきだからしょうがないのかもしれないが、戦国時代な人達はキャラ名で覚えてるのだが、現代メンバーは、江口洋介鈴木京香で覚えてしまうこと。あと、鈴木京香と的場に恋愛感情があったのなら、もう少し濃厚に描写して欲しかった。じゃないと、鈴木京香の意味が薄れちゃう。珍しく色気とかがない役だし…

まあ、もとが無茶な話といえば無茶な話なので、つっこむだけ野暮な話だと思う。楽しんだ方が勝ち!

この調子で、里見八犬伝とかもリメイクしないかなぁ…

新耳袋 第十夜・木原浩勝・中山市郎◇メディアファクトリー

新耳袋―現代百物語〈第10夜〉

新耳袋―現代百物語〈第10夜〉


様々な人から取材した怪談を集めたシリーズの最終巻。

流石、ロングシリーズというか他の怪談本に比べると、格段に読みやすい文体でまとめられている。
全てを、自分の実体験、あるいは口伝という感じに統一されているのだが、そこがまた良い。あまり、主観的なことを書かずに、こういう事があった、と淡々と怪現象が語られていく。

1話を最大5ページほどのまとめているのも、読みやすさの秘訣だろう。長く続く話も、エピソードごとに話数を区切っていて、読みやすさを念頭に書かれている。

よく実体験怪談集とかがあるのだが、だらだらと状況説明とかが長くて、肝心の部分が怖くない!なんて本がたくさんあるが、もう少し考えた方がいいと思う。

自分的に良い怪談本だと思うのは、この新耳袋と「超怖い話」シリーズ(関連含む)だと思う。

特に、この新耳袋シリーズは、怖いというよりも、少し不思議だなあという話がたくさん収録されていて、楽しい。何気ない日常で、自分も遭遇しそうな、少し不思議な話など、あり得そうで、少し怖くなる。

今巻は、今までと違い、章立てになっておらず、というか全て最終章と言うくくりになっている。その名前が「百物語」。原点回帰なのだろうか?

自分的な好きなエピソードは、件(くだん)の話が決着するものだ。自分も、このシリーズを読む前に、小松左京氏の「件の母」という短編を読んでおり、気になっていた話なので、実際の目撃談などを読んで、どきどきしていたのだが、最終巻で決着が付くなど、本当に何か因縁を感じてしまう。

ともあれ、長く楽しませてもらったシリーズ。これで最後というのも寂しい限り。出来れば新シリーズなんかを希望してみたり。

といっても、自分は怖いんで、2日にかけて読んでたり(笑)

Q&A・恩田陸◇幻冬舎

Q&A

Q&A

恩田陸のホラー系パニック小説。

首都圏近郊の大型ショッピングモールで起こった、パニック事件をその被害者とのインタビュー形式で進んでいく、ホラー系の小説。

もう、これが面白い!
本当に形式が、インタビューを書き起こしたように、一章につき、二人(しかも、インタビュアーはほとんどしゃべらない)しか出てこず、事件についても電文でしか分からないのだが、その分、恐ろしい。

事件の内容についても、なにかパニックが起こったということしか分からず、証言者もなにが起こっていたのかを正確に把握している人がいないので、色々な説が出てくる物の、本当のことはぼかされている。
だが、それが変にリアリティがあって、なんかジワジワと怖くなってくる。

しかも、証言者も最初のウチは普通の人達なのだが、途中からどんどん壊れた人になっていく。これが、怖い。
いままで、普通の生活をしていたのに、この事件をきっかけに、人生や自分の精神などが壊れていった人達が、淡々と事件やその後について語っていく様は、自分にも降りかかりそうで、嫌な気分になる。

個人的にはちょっとネタバレになるが、家族を失う心配のあまりに、家族を殺してしまった人が、凄く嫌だった。それなのに、自分の生活は淡々といつも通りに進めていくところが…

文章なども、ドキュメンタリーのようで小説なので、読みやすく、続きが気になることもあり、一気に読んでしまった。

恩田陸初心者にもお勧めの一冊、嫌な気分になるホラーとしては、上位に入りますぞ!

大沢さんに好かれたい・桑島由一◇角川スニーカー文庫

大沢さんに好かれたい。 (角川スニーカー文庫)

大沢さんに好かれたい。 (角川スニーカー文庫)

ゲームのシナリオやMF文庫「神様家族」シリーズなどでお馴染みの作者のヒーロー小説。

同じ図書委員のあまり目立たない同級生大沢さんに片思いをしている大地守は、下校途中にヒーローと怪物の戦闘現場に遭遇する。そして、ヒーローがやられたときに、その能力が守の中に入ってきて、ヒーローとして戦うハメになるのだが…

と、弱気な少年が、なぜか強い力を手に入れることになるという、お約束な感じの話なのだが、これが面白い! 文章のテンポがいいというのもあるのだろうが、続きが気になり一気に読んでしまった。

まあ、交換日記をしている時点で両思いじゃないのか?とも思うが、まあこういう話の主人公は鈍感というのがお約束だしね。この地味な大沢さんが、かなり魅力的に書かれていて、なぜに男子に人気がないのかが分からない。というか、守の視点だから魅力的なのかもしれないが。

それに、どこか抜けている政府機関のKこと小泉さんや、学園のアイドルだが実は重度の特撮オタク飛鳥さんなどが登場し、お約束から少しずれた物語を進んでいく。

最初はいやいやながらも、次第にヒーローとなっていく大地と、そのおかげで距離が離れてしまう大沢さんのすれ違いが何とも切ない。読んでいる最中、何度も「気付よ、守!」と、イライラしてしまった。

物語の後半で明かされる、怪物の正体や、なぜにヒーローになった物は、怪物にやられてしまうことになるのかといった秘密は、かなり切ない…

途中で、そうなのかな?とも思ったが、最後、怪物の正体が明かされたときはやはり切なく、悲しくなった。そして、ある機能がどうしてヒーローのスーツに搭載されているのか(最初はお約束ギャグかと思ってた)の理由が分かる、終盤は思わず涙したり…

ラストは、手放しでハッピーエンドではないのだが、かなり自分は好きなラストだった。「神様家族1」の時もそうだったのだが、このラスト、イラストの挿入場所がかなり効果的で、こういうのを見るとうれしくなってしまう。こういう部分のこだわりは、やはり、ゲームの仕事から来るのだろうか。

最初面白く、小ネタで笑って(「じゃあ意外なところで次はアマゾンね!」)、最後はしんみりする、エンターテインメントな物語。あまり、こういうジャンルに興味がない人にもお勧めの一冊かも。

萌えるSE 業界ノベルズ お兄ちゃんはプログラマ・藤山哲人◇技術評論社

<萌えるSE 業界ノベルズ> お兄ちゃんはプログラマ

<萌えるSE 業界ノベルズ> お兄ちゃんはプログラマ

新人プログラマが、業界にとまどいながらもなじんていく、HOWTOッぽい小説。

新卒でいわゆる中小企業であるバイナリーに入社した大町学は、かなり癖のある社員達と繰り広げる日常を、発注から納品まで流れを紹介しつつ軽い感じでつづった物語になっている。

自分は、SEな業界はよく分からないが、その会社ごとに妙なルールがあったり、癖の強い人々がいるというのは、ちょっと納得してみたり。
しかし、隣の席でもメッセンジャーでやりとりとかは、少し大げさな気がしないでもないけど、一応文面で残るので、理にかなっているような気がしたり。
机の様子も、そうそう、玩具とか本で埋まるよねと、他業種なのに感心したり(しかし、本当にSEってアニメオタク率高いのか?)。

押しの弱い営業さんや、クライアントの謎のダメだしなどは、SE業界でなくても経験することが多いので、共感するところが多々あった。
納品間際のやりとりなどは、自分も笑い事じゃないので、結構どきどきしながら読んでたり(笑)。余裕は、欲しい物ですな。

と、SE業界の一部(多分、これに書かれているのは仕事部分はともかく、趣味や日常部分はマイノリティだと思う…)が分かったり、仕事の流れなどが分かりやすいものの、売りである「萌え」の部分は、あまりいらなかったような気がする(笑)

確かに、最近は「萌え実用書」ブームというのがあって、その方が話題になりやすい、という部分は分かるんだけれども、そこがSE部分とあまり上手くリンクしていなく、ヒロインのあずみちゃんが「萌え要員」以上になっていないのが、結構惜しい。

その部分がなくても、普通に面白く読めるので、いっそ無いか、もう少しあずみちゃんをSEに絡めると良かったんじゃないかと思ったり。

文章も軽く、さくさく読めて、SEについても(仕事の辛さ含む)よく分かるので、業界に興味のある人、就職したいと思っている人は、読んでみるといいのではないだろうか。

ただ、カバーデザインがちょっと気になったり。もし、続編が出るのならば、もう少し他社のライトノベルレーベルのデザインなどを研究した方がいいと思う。これは、ちょっと買いづらいというか、古いというか…

交渉人真下正義・監督■本広克行◇フジテレビジョン・東宝

http://www.odoru-legend.com/

大人気シリーズ「踊る大捜査線」のスピンオフ映画の第一弾。

レインボーブリッジ封鎖事件解決後の真下警視の記者会見を見ていた犯人が、1年後、警視庁HPに挑戦状を送りつけてきた。「真下警視、一緒に地下鉄走らせようよ」と。標的にされたTTR総合司令室に向かった交渉人真下警視は、事件を解決することができるのか?

といったストーリーなのだが、イヤー面白かった!名前は違うけれども、TTRの路線は東京メトロそのままだし、制服も営団時代を彷彿とさせるデザインだったり、妙なリアル感があった。事件の発端となる東陽線(東京メトロで言うところの東西線)はよく使ってる路線だったので、妙な臨場感があったり(ちなみに、見た劇場も東西線沿線なんで帰りにもそれに乗ったり)。

地下鉄内のパニックシーンは、よくぞ日本映画でここまでとれたな、というぐらい臨場感がある。ぎりぎりのダイヤで暴走車両クモの進路を開けていくところや、早稲田駅周辺でぎりぎりまでクモが近づいていくシーンなどは、音楽も相まってかなりハラハラさせられた。あまり、取り上げられていないのだが特撮関係がかなり良くできていて、実写とミニチュアの合成が分からないくらいになじんでいた。ただ、映像の関係なのだろうが、東陽町の駅が島中ホームになってたのが残念。茅場町あたりがモデルっぽくなっちゃってる。

話の方は、やけにスケールのでかくなった「踊る」なのだが、今までの作品と違うのは、青島のようにぐいぐい引っ張っていく主人公ではないこと。ババーンとタイトルになっているものの、真下警視はどちらかというとサブ的な扱いになっていて、初登場のヤクザみたいな木島警視やTTRの職員などの活躍で話が進んで行くような感じだ。もちろん、交渉シーンなどもあり、そこでは真下が主役になるが、全体的には影が薄い感じ。でも、それが悪いわけではなく、良い感じに作用している。この映画の本当の主役は、危機的状況の中でベストを尽くす地下鉄職員なのだと思うから(だから、エンディングで流れる威風堂々が生きてくる)。

今回は、脚本が変わったこともあるのだろうが、外枠は紛れもなく踊るなのだが、ギャグの性質やテンポなどが今までと違っていて、新鮮だった。青島の存在がオチみたいに使われてたり(笑)、そんな方法で爆弾止めるの〜、とか。特に、警視庁から過去の資料が続々と送られてくるのだが、PDやZIP、はては八インチのFDだったりして、使えない!というシーンには大爆笑。その後、各ドライブも送られてくるのだが、あれどうしたんだろう。今のパソコンだとほとんどUSBだから、接続できないんじゃないかなぁ…

最後のオチに、少し不満が残る物の、個人出来には大満足。夏公開の「容疑者室井慎次」が楽しみだ。

余談だが、2月に秋葉原に行ったときにサトー無線メロンブックスの間の路地に、地下鉄の看板があり「ここに新しい出口が出来るのか?」と思ってよく見たらTTRと書いてあって、ロケ現場の準備中だったことがあった。黒い車が止まっていて、スタッフ車両だと思ってたら、劇中で重要な役割をする車だったので、ちょっと、びっくり。しまった、もう少しいれば寺島進みれたのに!しかし、普通のビルの入り口だったのに、映画で見るとちゃんと地下鉄の駅に見えたので、映像って凄いなと思ったり…

最後に、エンディングの後にもお楽しみがあるので、席を立っちゃダメですぞ!