大沢さんに好かれたい・桑島由一◇角川スニーカー文庫

大沢さんに好かれたい。 (角川スニーカー文庫)

大沢さんに好かれたい。 (角川スニーカー文庫)

ゲームのシナリオやMF文庫「神様家族」シリーズなどでお馴染みの作者のヒーロー小説。

同じ図書委員のあまり目立たない同級生大沢さんに片思いをしている大地守は、下校途中にヒーローと怪物の戦闘現場に遭遇する。そして、ヒーローがやられたときに、その能力が守の中に入ってきて、ヒーローとして戦うハメになるのだが…

と、弱気な少年が、なぜか強い力を手に入れることになるという、お約束な感じの話なのだが、これが面白い! 文章のテンポがいいというのもあるのだろうが、続きが気になり一気に読んでしまった。

まあ、交換日記をしている時点で両思いじゃないのか?とも思うが、まあこういう話の主人公は鈍感というのがお約束だしね。この地味な大沢さんが、かなり魅力的に書かれていて、なぜに男子に人気がないのかが分からない。というか、守の視点だから魅力的なのかもしれないが。

それに、どこか抜けている政府機関のKこと小泉さんや、学園のアイドルだが実は重度の特撮オタク飛鳥さんなどが登場し、お約束から少しずれた物語を進んでいく。

最初はいやいやながらも、次第にヒーローとなっていく大地と、そのおかげで距離が離れてしまう大沢さんのすれ違いが何とも切ない。読んでいる最中、何度も「気付よ、守!」と、イライラしてしまった。

物語の後半で明かされる、怪物の正体や、なぜにヒーローになった物は、怪物にやられてしまうことになるのかといった秘密は、かなり切ない…

途中で、そうなのかな?とも思ったが、最後、怪物の正体が明かされたときはやはり切なく、悲しくなった。そして、ある機能がどうしてヒーローのスーツに搭載されているのか(最初はお約束ギャグかと思ってた)の理由が分かる、終盤は思わず涙したり…

ラストは、手放しでハッピーエンドではないのだが、かなり自分は好きなラストだった。「神様家族1」の時もそうだったのだが、このラスト、イラストの挿入場所がかなり効果的で、こういうのを見るとうれしくなってしまう。こういう部分のこだわりは、やはり、ゲームの仕事から来るのだろうか。

最初面白く、小ネタで笑って(「じゃあ意外なところで次はアマゾンね!」)、最後はしんみりする、エンターテインメントな物語。あまり、こういうジャンルに興味がない人にもお勧めの一冊かも。