理由・監督■大林宣彦◇角川エンタテインメント

宮部みゆき原作のミステリの映画化。

台風の夜、荒川区の2棟立てのマンションで転落事故が発生。駆けつけた警察と管理人が落下元と思われる部屋を見てみると、三人の男女の惨殺死体を発見。当初、その部屋の住人かと思われていたが、無関係な人達だということがわかり…

と、粗筋だけだと事件を追っていく普通のミステリのようだが、ちょっと違う。原作からそうなのだが、ドキュメンタリー形式をとっていて、作家の人が様々な関係者へインタビューしていき、その当時を再現して事件の輪郭と核心を浮かび上がらせていく、という形式。

これがまた面白い! 最初、監督が大林宣彦だというので心配だったんだけど、その心配は全くなかった。
自分の中で、大林監督はファンタジーの人というイメージがあったけど(ストーリーがという訳じゃなく、実際の物をとっててもなんか現実感のない映像を録る感じ)それが、逆にいいほうに作用した様な映像になっている。多分なんだけど、架空のドキュメンタリーって言うファンタジーとして撮ってたんじゃなかろうか。

役者の演技も、リアルと嘘を上手いこといったり来たりして面白い。そのために、ちょい役でも結構ちゃんとした人達を使ってるのだとは思うけど。個人的には、当初犯人とされていた人の行きつけのバーの主人役の永六輔に吹いてしまった。しゃべりが好きそうな人、まんまじゃんか!

映像的にも、マンション住人の広い部屋と、下町系の窮屈な部屋という対比を極端なまでに行っていて、「持ち家が欲しい」という動機を納得させるようになっていて感心してしまう。

肝心のストーリーも、ある証言を元に、違う人物の証言を聞きに行くと、新しい事実が出てくるといった感じに、どんどん連鎖がつながっていく、というミステリ的には気持ちいい展開になっている。まあ、事件自体は気持ちいい物じゃなく、今の日本を反映した、嫌な事件だけど。

1つの事件が起きると、その周辺だけじゃなく、無関係と思ってる人も、間接的に繋がっていて、他人事じゃない、というのを再現していて、興味深い。
作品内でも、出版社が事件に深く関わっていた人物に、恫喝混じりで手記を書けと迫ったり、ワイドショーがせめてきたりと、インタビューしてる人のプライバシーを映そうとしてみたり、マスコミの野次馬的な物を嫌な風に表現している。それは、それを求めてるのは、あなた達かもしれないよ。でも、対岸の火事じゃあないんだよ、あなたも関わってるかもしれないよ。と言われているような感じがした。

一見、無関心社会の悲劇のような事件なんだけど、それだけに皮肉が効いていて、ズンと来る映画だった。

自分が最初に見たのは、日テレバーションだったんだけど、なんか、面白そうなんだけど、ピンとこなかった。でも、これはなんか加えられてる部分がよけいなのか?と思ってDVDを買ってみたのだけど、正解だった。 同じように、TVでみて面白くなかった人は、DVD版を見ることをおすすめしてみたり。2時間40分あっというまですぞ。

でも、エンディングの歌、怖すぎるんですけど…

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