この胸いっぱいの愛を・梶尾慎治◇小学館文庫

この胸いっぱいの愛を (小学館文庫)

この胸いっぱいの愛を (小学館文庫)

梶尾慎治原作「クロノス・ジョウンターの伝説」を元にした同名映画を原作者自らノベライズした作品。

鈴谷比呂志は、出張で子供の頃暮らしていた門司に飛行機で向かうことになった。しかし、気が付くと、20年前の門司にタイムスリップしていた。とりあえず昔暮らしていた旅館「鈴谷」に向かうことにしたのだが…

と、原作を知っている人なら分かると思うが、「クロノス・ジョウンターの伝説」とは、全くと言っていいほど違う作品になっている。まあ、タイムスリップの仕掛けとしてクロノス・ジョウンターシステムは出てくるんだけど、仕組みや理論も全く違う、タイムマシンとしてしか出てこない。

原作好きとしては、映画化の話を聞いたときは、ちょっとどうなのよ?と思っていたのだが、この作品を読んでみたら180度ひねってみたら、カジシン物になっちゃった、というか、黄泉がえり2っぽくなったというか…

基本ラインは、主人公「鈴谷」の話なのだが、他のキャラクター達も20年前の門司で何か後悔する出来事があった人ばかりで、それらを自分たちで解決していくという感じに進んでいく。そして、解決するとそこから消えていく、という感じなのだが、現代に戻ったら一体どうなっいるのか?いつまで、この時代にいられるのか?等の不安要素も設定されているので、ストーリー運びは定番っぽい物の最後が気になるので、一気に読んでしまう。

ただ、映画「黄泉がえり」のときもそうなのだが、この監督さん、以外と残酷な結末が好きなんじゃないかな?と、思うところが端々に出ていて、ただの感動物にならないようにしている感じがする。

タイムスリップ発動の音がレッドツェッペリンの「胸いっぱいの愛を」だったり、持ってるお金は小銭しか使えなかったり、他の銀行系はダメだけど、昔作った郵貯カードは使えたり、ある家族の結末は、そう来たか!と思ったし、かなりタイムパラドックスは残ったまんまなんだけど、話としてはかなり面白かった。

前は、タイムトラベル使うだけなら、この原作つかわんでもいいだろ! 絶対見ない!と思ってたんだけど、かなりのカジシン分が入っているので、見てみようかなという気分になってきた(笑)

でも、ここまで変えて、しかも本人に書き下ろしでノベライズさせるなら、タイムトラベル、泣かせる物というお題を立てて、書き下ろしで原作を書いてもらえば良かったのに(福井晴敏の「ローレライ」みたいな感じ)と思ってしまったり。

でも、ラストのパラドックスは何とかならなかったのかなぁ、シーン的にはキレイなんだけど、ちょっと納得できないなぁ…

クロノス・ジョウンターの伝説 (ソノラマ文庫)

クロノス・ジョウンターの伝説 (ソノラマ文庫)

原作(つーか元ネタ)のこっちも、切ない話がつまってて、タイムトラベル物の傑作ですぞ。