宇宙戦争・監督■スティーブン・スピルバーグ◇パラマウント映画

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H・Gウエルズの古典的SF小説を原作とした、対エイリアン戦映画。

港湾コンテナ作業員であるトム・クルーズは、離婚した妻に引き取られた子供を週末訪問で迎えた。その日は、天候もおかしかった。そして、地下から巨大なトライポッドが姿を現した… そして世界は、狂い始めていく…

うわー!という感じの傑作! スピルバーグの本気をかなり感じた映画!

なんか、評判を見るとあまりよろしくなかったりするんだけど、多分、求めてる物が違ったんだと思う。確かに、パニックムービーではあるんだけど、これは、インデペンデンスデイアルマゲドン(微妙なのばかり選んじゃった)などの、希望があるパニック物ではなく、もうこの後には絶望しか残されていないパニック物だと思う。なので、助かった!いやっほー!なエンタテイメントではなく、世界が終末へと進んでいく様を映像にして見せているのだと思う。

なにが近いかというと、多分、教習所で見せられる、無茶苦茶救いのない交通事故の加害者のドラマ。

信仰のよりどころとなる、教会を破壊しつつ現れるトライポッド。火を噴き出し、誰もコントロールする者のいない、だけど走り続けている列車。それなのにシステム的に淡々と動き続けている踏切。攻撃をしているものの、直接的描写はまるでなく、全滅しているであろう爆発だけを表現されている軍隊。川の上流から、ゆっくりとそして大量に流れてくる死体。着ている者が粉砕され、空からばらまかれる衣服。乗客の姿はまるでなく、破壊された跡のみを見せつける墜落した旅客機。否応なしに横倒しにされるフェリー。動く車を持っているというだけで、襲いかかってくる群衆。人類の意志をはなれ、コントロールを失っていく機械たち…(ん、もしかすると冒頭で息子とキャッチボールしているときに、カッとなって窓ガラス割っちゃうのも伏線か?)。等々、圧倒的なビジュアルで、人類にはもうどうしようもないという状況をスピルバーグは、観客に見せつけていく。

これだけでも、かなり怖い状況なのに、主人公であるトム一家にカメラを固定して、情報の遮断まで絶望的な演出をしている。
こういう映画でありがちな神の視点(なのじゃよ博士とか、政府のえらいさんが知り合いとか、説明に便利なキャラやシチュ)は、冒頭と最後のナレーションのみ、後は伝聞でしか情報が与えられない。なので、それが本当なのか嘘なのかも分からない。最初にトムが決めた「ボストンのおばあちゃんの家に行く」という選択肢でさえ、正しいのか分からない(なんとなく、廃墟が広がっていたってラストだったらどうしようと思っていた)。道中、すれ違う人々も、最小限の情報しか提示しない。突然いるTVクルーや、たまたまであった近所の家族など。唐突に現れては、トムの視界から消えていく。ただ、実際生活している場合、この人達はどういう人でこう旅してここまで来たなどということは、あまり説明しないのではないだろうか(まあ、する人もいるけど)。なので、観客は、トムと同じ情報しか持たず、トムと同じ体験しか許されない。

映画を見ている間、「この状況、この絶望感、あんたはどうするよ?」とスピルバーグに問われている感じが常にあった。

おまけに、絶望的状況になったとき、敵は火星人だけじゃない、さっきまで隣人だった者までも敵になるという状況まで用意して、観客の絶望をさらにあおっていく。きつい、かなりきつい話だった。

もちろん、話のメインの柱はどんなことがあっても家族を守るというのがあるのだけど、絶対、終末になった世界でどう生きる?というのがスピルバーグの描きたかったことだと思う。だからこそ、家族を守るために戦わない、というキャラクターにしたのだと思うし(だけど、あることはしてしまう…)。

しかし、ここまで絶望的な無力感を漂わせたトムクルーズって初めて見たなあ。

ただ、なんとなく笑いどころというか、息抜きシーンもあって(意図的なのかは分からないけど)、娘がトイレをしたいというとき、「見えるところでしろ!」「変態!」とか、後生大事に抱えてきた段ボールの中に調味料しか入ってなかったりとか、思わず笑ってしまうポイントもあったりして。

そして、もう一つやりたかったことは、「完璧な怪獣映画」なのではないだろうか。そうだとすると原作からの一番大きな変更点である、上空からではなく、地中から姿を現すトライポッドというのがよく分かる。
アスファルトに亀裂が走り、路肩に止まった車が振動し、窓ガラスは割れ落ちていき、建物を破壊しつつ、その中から巨大な影が現れる。もう、モンクのないくらい完璧なシチュエーション! おまけに、水面下が妖しく光り、渦巻きを発生させながら巨大な影が立ち上がる、なんてシーンもあったりして。最初にトライポッドが出てくるシーンじゃ、伊福部節っぽい、ホーンと打楽器が鳴ってるし(笑)
おまけに大阪じゃあトライポッドを破壊してるらしいし(笑) 巨大な物が人を襲う恐ろしさというのが、もの凄くリアルに演出されていると思う。今まではガメラ3の渋谷のシーンが、巨大生物が突如現れた理不尽さを一番表現してたと思ったけど、ちょっと、こっちの方が上になったかも…

あと、最後のオチだけど(宇宙人撃退の方ね)は、あれは原作通りだしいいんじゃないかと思う。もう少し複線があればという意見もあったけど、トム視点で分かることじゃないので、いきなり入れるとちょっとおかしくなっちゃうと思うし。結局、人類はなんにも役に立たないという無力感も引き立つし、いい締めだと思う。

トムも、結局娘は母の方へ行き、仲の悪かった息子とは少しだけ仲良くなった。でも、元奥さんお家で住むわけにもいかないから、このあと、多分ひとりで、どこかで生きていくっていう、世界が終末を迎えるかもしれないけど、人生っていうのはそういうのと関係なしに進んでいく、な感じの寂しい終わりかただと思う。
息子が生きてたのは、ご都合じゃないかとも思うんだけど、トムを認めてくれる人が、誰もいないのは、悲しすぎるんで追加したんじゃないだろうか?じゃないと、お父さん達は席を立てないよ。

と、自分的には大満足の映画、万人に勧められる映画じゃないけど、ビビッと来た人は、是非とも見て欲しい映画。でも、圧倒的ビジュアルはたまらんものがあるので、是非大画面で見て欲しい映画ですよ。

たまには、与えられる情報をまんま受け取るんじゃなくて、作品の意図を考えるのも、いいもんですぞ。

おまけ、シチュエーションはみんな知ってるよね?的に進むんで、原作は読んでおいたほうがいいかも。もう、古典だけど面白いですよー、つか、怖かったり…

宇宙戦争 (ハヤカワ文庫SF)

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