クレヨンしんちゃん暗黒タマタマ大追跡・監督■原 恵一◇バンダイビジュアル

「モーレツ!オトナ帝国」や「あっぱれ戦国大合戦」で数々の賞や評価を得た原監督の劇しん第一作にして、劇しんとしては5作目の作品。
劇しん過去作品のDVDとしては、最後の発売となった待望の一本。

埴輪に封印された魔神を甦らそうとする珠黄泉族とそれを阻止しようとする珠由良族の戦いに巻き込まれた野原一家はどうなるのか?と、劇しんとしてはいつものあらすじなんだけど、これを毎回違うテイストにしているのは、もの凄いと思う。ここが後期になってからの高評価につながっているのだと思う。

この作品の頃は、劇しんの評価というのもあまり高くはなかったのだが、今見るとかなり面白い。野原家の味方(というか、一方的に巻き込んだ)珠由良族のオカマ3人兄弟が経営する歌舞伎町のオカマバーからはじまる、ロードムービー風の物語なんだけど、シーンごとの舞台設定がかなり面白い。青森に向けての旅なので、北関東や東北が舞台になるのだが、地方都市特有のやけに駐車場がひろいショッピングセンターや、健康ランドなどありそうな場所でアクションしたりする。実家も田舎だったので分かるんだけど、畑とか田圃の真ん中に、ぽつんとあるんだよね、巨大な(都市部と違い上にではなく横に)建物が…

ここら辺は、前4作を担当していた本郷みつる監督とは違い、場所を特定してはいないもののリアリティのある設定になっている。これが、これ以降の原監督の持ち味となっていく。これを活かしまくった「温泉わくわく大決戦」は、怪獣物と云うこともあり、大いに盛り上がる!

見てるオトナを薬とさせる小ネタも、銃大好き刑事、東松山よねがいる資料室に張られまくっているポスターは、タイトルこそパロディになっているものの、よく見ると元の映画ポスターそのもののレイアウトだったり、珠由良族の護衛役の名前が七人の侍だったり、名刺交換中は攻撃しちゃいけなかったり、こんにちはこんにちは世界の国からだったりと、盛りだくさんに仕込まれている。

ストーリー的には、今作ではあまりしんちゃんは活躍しないのだが(ひろしとみさえが大活躍!)、ひまわりが初登場する作品であるため、兄としての顔が良くも悪くも出てきて、成長してるんだなと思わせる。

原監督の劇しんでは、必ずしんちゃんが何かしら成長する様子を描いているのだが、もうここからやっていたのだなあと、感心してしまった。

とはいうものの、基本的には笑って楽しめる娯楽作品。とりあえず観て、もの凄い脱力する魔神のオチを確認して欲しい。上記のような小難しいことを考えるのは、それからでも大丈夫。


劇しんに興味をもったら、これがお勧め。「あっぱれ戦国大合戦」までの劇しんについて、豪華執筆陣が真面目に語ってたり。

クレヨンしんちゃん映画大全―野原しんのすけザ・ムービー全仕事

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