ハサミ男・殊脳将之◇講談社文庫

ハサミ男 (講談社文庫)

ハサミ男 (講談社文庫)

先頃映画化された、13回メフィスト章を受賞した作品の文庫版。

半年前まで世間を騒がせていた、猟奇殺人犯「ハサミ男」が久々に事件を起こすために被害者、樽宮由紀子をリサーチしていたが、決行直前に別の誰かに殺されてしまった。しかも「ハサミ男」と同じ手口で… 「ハサミ男」の別人格である「医師」の提案で真犯人探しをすることになるのだが…

設定自体が、かなりトリッキーになっているこの作品。殺人犯が探偵役というところもさることながら、斜述トリックや、犯罪心理分析官、警察小説風の捜査陣など、かなり盛りだくさんな要素が詰め込まれている。

だけど、文章自体がかなり読みやすいので、一気に読めてしまう。これがデビューと考えるとすごい作品だと思う。確かに、後の作品「美濃牛」「黒い仏」などのほうが、文章的には読みやすいが、面白さはこちらのほうが上かもしれない。

毎週末、自殺を試しているという「ハサミ男」の描写も、痛々しく読んでいる方も気持ちが悪くなってしまう。その割には、殺人事件の描写などはあっさりしていたりする。なので、痛い描写がダメな人にも安心してお勧めできる(笑)

ハサミ男」がつとめている出版社の描写も、かなりなリアル感がある。自分も、とある編プロでバイトをしていたことがあるのだが、締め切り中の慌ただしさと、ないときは掃除とかをしているという閑散としている感じはよく分かった(笑)

しかし、この小説の白眉はなんと云ってもクライマックスだろう。「ハサミ男」の正体が分かったと思ったら、畳みかけるように樽宮由紀子事件の真犯人との対決になり、警察側からの推理が始まり、ホラー小説のラストのように物語が閉められる。

このテンポは、ものすごい。ただ、その中で一番インパクトが強いのはハサミ男の正体だろう。ハサミ男パートは1人称だったのでまんまと騙されてしまった。読み返してみると、確かに所々にヒントが隠されていて、正直かなり悔しかった(笑)ただ、最初から疑っていても、一読目では分からないのではないだろうか。

しかし、他の部分は兎も角、ハサミ男の正体についてのトリックは文章媒体のみで有効なトリックだと思うので、映像媒体である映画版ではどのように表現されているのか、かなり気になる…