ネジ式ザゼツキー・島田荘司◇講談社ノベルズ

ネジ式ザゼツキー (講談社ノベルス)

御手洗潔シリーズだけど石岡君などは出てこない海外物。

ある年代から記憶が出来なくなったエゴン・マーカットが書き記した空想小説「タンジール蜜柑共和国への帰還」を元に彼に何が起こったのかを、解き明かしていくミステリー。

作者お得意の、まず謎な世界を提示し、それを理論的に推理していくタイプの物なのだが、これが面白い。特に作品中に出てくる「タンジール蜜柑共和国への帰還」は、これだけで挿絵付きの童話として出してもいいんじゃないかと云うほど、イメージが溢れていて面白かった。空を飛ぶ妖精やネジが外れ落ちていく頭など、どれも奇妙なのだが何処が幻想的だ。

だが、それが実はエゴンの過去に起きた実際の事件などを元に彼が無意識に組み立てた物語だと分かると、ははあ、と違う意味で読み直してしまった。

ここまでで、半分くらいなのだが、エゴン氏の記憶の状態が分かるくらいで、話としてはあまり進んでいないのだが、ネジが外れ落ちていく頭というのが、実際にあった殺人事件だと分かったところから、急に動き出す。

そこからは、御手洗潔の本領発揮！アームチェア探偵ならぬ、インターネット探偵となって過去の事件のデータを集め、推理していく。
そこで、意外な真実が次々に明らかになっていく。ここのスピード感はかなり気持ちがよい。やはりミステリはこの瞬間が一番面白い！

この作品の形態は、横書きの現実パートと縦書きでフォントの太いタンジール蜜柑共和国への帰還パートに分かれているのだが、本が右開きのために、この現実パートがちと読みづらい。文庫になるときには、他の形に変更されるとありがたいのだけど…

そういえば、こういう書式ごと変えてしまう作品というと「眩暈」を思い出すが、今作の方が流石あのころよりは数段上質な架空童話が楽しめる。

童話とミステリー、両方楽しめるお得な一冊だ。