空の中・有川浩◇メディアワークス

空の中

空の中

電撃文庫デビュー作家の二作目。

高度二万メートルで起きた、2度の謎の飛行機事故。その調査に乗り出した自衛隊は同高度で、謎の物体と遭遇した。その頃、高知に住む少年は海で謎の生物を拾うのだった…

と、二つの視点が交互に進行していく、ファーストコンタクト物。とはいえ、人類が出会うのは宇宙人ではなく、地球上に太古より住んでいた巨大生物。地球に太古から住んでいたという通称「白鯨」と、対話を続けていくというストーリー。そこに、同じように拾った生物「フェイク」と携帯電話でコミュニケーションを図る少年の話が挿入されていく。

これは、面白かった!作者は、青春物プラス怪獣物といっているが、この感触はまさしくファーストコンタクト物。価値観の違う物同士が話し合うというのは、SFでは結構あるのだが、一般向けにすらすら読めるようにした物は珍しい。470ページほどの作品だが、一気に読んでしまった。
以外と忘れられがちな諸外国の動向なども、きちんと描かれていてうれしい。途中、日本が「白鯨」を攻撃してしまい、敵対することになるのだが、その理由が北の某国が「白鯨」を脅威に感じ、核弾頭で政府を脅したため、というのも昨今の情勢を考えるとあり得そうで、変なリアル感もある。

「白鯨」の被害者達が、攻撃的な団体を結成し、対話ではなく殲滅を!と活動したり、シミュレーションというより、社会風刺的な部分もあり、盛りだくさんの内容となっている。

同じ生物(?)に出会ってしまった大人と子供を交互に描くことにより、他の物と対話すると言うことの難しさを表現してあり、若い世代に読んで欲しい作品。

多分、出版社もそう考えていたのだろう。電撃文庫といういわゆるライトノベルという土壌から出てきた作家の2作目をいきなりハードカバーで出すというのは、かなりリスキーだ。だが、ライトノベルはカテゴリーを作ってしまったが為に(アニメ、マンガ系のイラストがふんだんにある等)読者層を狭めてしまった感じがする。なので、ハードカバーにし、売れ線の本と並べることに成功しているとおもう。近所の書泉でも、セカチューやこのミス上位作品等と混じって、この本が置いてある。オビに恩田陸の推薦文が載っているのもその作戦の一つだろう。
一般の多数の人にふれてもらうには、ライトノベルというジャンル分けは難しい時代になったのかもしれない…

この作品も、映像にするのは難しい物かもしれないが、是非とも映画などで見てみたい物だ(数十キロの薄い円盤が空自基地の上に浮かんでるという画は凄くシュールだと思う)。日本映画の新しいジャンルが開けるかもしれない。