クラウ ファントムメモリー(1)(2)・富永浩史◇メディアファクトリー

クラウ―ファントムメモリー〈2〉 (MF文庫J)

クラウ―ファントムメモリー〈2〉 (MF文庫J)

2004年に放映されていた同名アニメのノベライズ。
2100年の舞台に未知のエネルギーリナクスと融合した少女天箕クラウとその対であるクリスマスが、リナクスを巡る事件に巻き込まれた行く物語。
何となく全体の構成が、アメリカのTVドラマシリーズを思わせる感じで、かなり面白かった。深夜に放送するのは惜しいほど、上質なSFドラマになっていた。

ノベライズは基本的に、アニメに準拠したストーリー展開になっているが、2クール(全26話)を2冊にまとめるために、数エピソードを整理し、1つのエピソードにまとめてある。だが、その部分が、苦肉の策ではなく、アニメと小説の表現の違いを浮きただせている。小説として考えるなら、キャラクターを整理したこちらの方法の方が、すんなりと頭に入ってくる。

キャラクターの掘り下げなども、アニメ版もかなり丁寧に各キャラクターを描写していたが、ノベライズはサブキャラクター達の描写が特に詳しくなっており、副読本としても楽しめる。特に、リナクスの研究を続けていた学者、市瀬などはアニメ版では演出でかなり悪そうな所がクローズアップされていたが、ノベライズでは、ただ、探求心のために暴走してしまった、悲しい男として描写されている。クラウの父である天箕博士やウォン警視正など、どちらかというと男性陣の描写に力を入れているようにも見えた(そうしたら、後書きに作者自らそうだと書いてあった(笑))。
さすがは、ミリタリー系を得意とする作者、アニメではあまり語られなかった、リナクスという存在の分析や、対リナクス用武器を使用したアクションシーンの描写などはかなり細かく描かれており、少し疑問だった部分も解消された。アニメを観ていなくても、小説だけでも楽しめるようになっているので、SFが好きなら一度は読んで欲しいタイトルだ。