作家の犯行現場・有栖川有栖◇新潮文庫

作家の犯行現場 (新潮文庫)

作家の犯行現場 (新潮文庫)

雑誌「ダ・ヴィンチ」に連載されていた紀行エッセイの文庫版。前に単行本化されていた物だが、文庫化にあたりボーナストラックが付け加えられている。

この本は後書きにも書いてあるとおり、紀行文だけでなく、小説やエッセイなどがちりばめられており、バラエティ豊かな内容になっている。
第一章である軍艦島からして、幻の老人に島を案内されていたり、桜の木を元にした小説が急に載っていたりと、読む方も飽きないようになっている。

個人的には、トリックアートをモチーフにした小説が幻想的で残酷で、印象に残った。

そもそも、有栖川氏のメインフィールドはかなりパズラー要素の高いミステリーであるが、短編などではファンタジー要素の強い物や小話的な物まで幅広く執筆しており、そういう要素がこの本にも存分に表れている。それに、さすが小説家、文章はかなり読みやすい! 今まで紀行文などを読んだことがない人にも、入門用として良いのではないだろうか。

本文とともに掲載されている写真も、かなり魅力的な物で、カラーではないのが少し残念な物もあった(江戸川乱歩邸などは、モノクロの迫力があるのだが…)。

紀行物という点に関しても、詳細な地図は残念ながらないのだが(ざっくりした日本地図のみ)、テキストのデータとして、交通情報などはフォローされており、この本を片手に旅をするのにも十分な作りになっている。

あと、この本独自のお楽しみ、取材場所に関連したミステリー小説を各場所4冊ずつ紹介してあり、これを読みながら取材場所を想像するのも、楽しいのではないだろうか。手に入りづらいもの(絶版)には、印も付いているので、図書館や古本屋を巡って探すのも、面白いだろう。とはいえ、ミステリー好きの人は既読の物が多いかもしれないが…

自分も経験があるのだが、知っているところや行ったことのある場所が、読んでいる小説の舞台になるというのは、以外とうれしい物だ。内田康夫や西村京太郎のトラベルミステリーが流行ったり、2時間ドラマ化されやすいのは、そういう事情もあるのだろう。

物語の舞台になっているところにいってみるというのは結構楽しい物だし、その情景もわかりやすくなるので、一度この本を片手に旅をしてみたい物だ。